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刀姫in 世直し道中ひざくりげ 第3話 芥藻屑との戦 ノ55

 距離を取った二人が互いに一呼吸おき次なる一手を考える...

 

 はてさて、この決闘の結末や如何に?といったところで場面は変わり、此方は囚人を誘導していた九兵衛が座り込む静かな森の中。

 九兵衛の眼前には、各地から囚われていた人々が同じく地べたに座り休憩していた。

 蛇腹へ攻め込む前に立ち寄った村の長郷六から聞いた話しでは、囚われの身となっている人々の数は百五十近くだった筈なのだが、一人残らず逃げてきたにも関わらずその人数は三分のニほどしか居ない。

 お銀が社に忍び込んだ際に見た屍の山から想像するに、酷な強制労働で朽ちた者や、病気を発症し放置されたまま息絶えた者、芥藻屑の連中に弄ばれ殺された者など短い間に亡くなってしまったのであろう...

 木々の間からさす木洩れ陽により露わになった人々の顔を覗くと、全体的に年齢の若いことが判明した。最も若い者で十代前半、最年長の者でも三十に達していないかもしれない。
 
 まともに風呂に入ることも許されなかった人々の顔は薄汚れ、睡眠から目覚めたばかりだというに疲労の蓄積が一眼で分かるほど疲れきっている。

 さらには怪我を負わされた者も多数見受けられ、その中でも九兵衛の目を引いたのは、二十歳にも満たないような女性の顔だった。

 汚れていなければ綺麗な白い肌をしているのに違いない彼女の右頬には、刃物でザックリと斬られた深く長い傷が刻まれていた。

 九兵衛がその女性にゆっくり近づき優しく声を掛ける。

「娘さん、その傷、痛くはありやせんか?もしも痛みがあるようであれば痛み止めの薬がありやすよ」

 突然傷のことを言われた女性が袖でサッと顔を隠し、微かにシクシクと泣き始めてしまう。

 九兵衛は内心「しまった!」と慌てていたけれど、なんとか平静を保ちつつ黙りの彼女へ話しを続けた。

「あっしの気遣いが足りずにすいやせん。悪気があったわけじゃございやせんので勘弁しておくんなまし。それと、お詫びと言ってはなんでやんすが、あんさんの傷をたちどころに治せるとっておきの薬がありやす。人に見られるとまずいんで、あっちの草むらへそっと隠れて待っててれやせんか?」

 予想だにしない言葉を聞き、泣いていた彼女が泣き止みか細い声を出す。

「...ほ、本当に?」

「本当でやんすよ。さ、今のうちに。あっしは一仕事終えてから向かいやす」

 彼女は黙ってコクンと頷くと、腰を屈めて草むらの方へ静かに向かった。

 九兵衛は元いた場所に戻り、休憩する人々に向かって語りかける。

 

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