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刀姫in 世直し道中ひざくりげ 第3話 芥藻屑との戦 ノ84

 周囲の人々から「神童」と称賛を受け、家族を始めとして誰もが将来を有望視していた少年、韋駄地源蔵は長い闘病生活を抜けたのち、名も知らぬ男に突如として襲われた命の窮地から逃れるべく、実態を持たぬ怪異であった「鬼」と躊躇せず命懸けの契約を結んでしまい、人間からすれば醜いともいえる姿に変わり果ててしまった。

 結果として彼の命は救われた訳だが、人としての道は閉ざされたと言わざるを得ない。

 と云っても、あの状況ならば源蔵少年には選択肢など無かったのだから仕方無し...

 第三者からの感想を述べるならばこんな具合だろうけれど、実際のところ韋駄地源蔵本人は至って後悔一つなく、今は不自由だった身体が以前にも増して動き、強靭になったことへの喜びの方が圧倒的に優っていた。

 だが、以前の優しく朗らかだった少年からは想像出来ない所業、目の前の大人を容易く殺してしまった彼の思考や精神は、この先時間をかけて深く暗い闇の中へ堕ちていくこととなる...

 韋駄地は己を殺せと支持した真犯人を探すべく、屍となった秤度の衣服を剥ぎ取って身につけると、このままでは目立ち過ぎて確実に騒動になるであろう般若の如き顔を隠すため、病床を共にした布団を程良い大きさに引き裂き、視界が辛うじて残るように頭と顔を覆う。

「まずは紗夜を探して家族の状況を聞き出すとするか。平穏無事であれば良いが...」

 なんと韋駄地は、我が身に災難が降りかかったばかりだというのに家族のことを案じた。この時点では幸いなことにまだ完全に人の心を失っていなかったのである。

 韋駄地がの居る小屋から屋敷まではさほど遠くはない。一寸(約12分)も歩けば着いてしまう距離であった。

 約2ヶ月半振りに外へ出る韋駄地源蔵。

 久しいということもあり少しばかり臆するのかと思いきや、そんな様子は些かも見せず秤度の入って来た戸を勢い良く開け外へ赴き、大きく息を吸ってまた大きく吐く。

「やはり外の空気は美味いものだなぁ。...しかし日差しが眩し過ぎる...」

 季節はすっかり秋になり、陽の光は弱くなりつつあったが彼には夏の日差しに感じるほど眩しく、そして暑くも感じていた。
 これが怪異と一体になった者の体質変化によるものだとは知らない...

 韋駄地は屋敷に着くまでに三人の人間とすれ違ったが、三人が三人とも彼の顔を布で覆う怪しい出立ちに目を向けたものである。

 韋駄地家は地元で有名な名家であったため、屋敷はほかの民家に比べ遥かに広く、明らかに上等な造りをしていた。

 

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