刀姫in 世直し道中ひざくりげ 第3話 芥藻屑との戦 ノ60
左から五人、右から八人。
瞬時に人数を把握した韋駄地源蔵は人数の多い右側を選択し駆け出す。
八人の兵士が横一列に並び、彼に向かって一斉に長槍を突き出した。
だがその攻撃は虚しくも空を切ることとなる。
彼は重い鎧を纏っているのにも関わらず、一斉攻撃を嘲笑うかのように高い跳躍でかわしたのだ。
驚愕した敵を尻目にすかさず頭上から八連の突きを繰り出し、一撃も外すことなく八人の頭を突き砕いた!
着地すると同時に八人が絶命しバタバタと倒れたが、その新しい屍を越えて来た左側の五人が同じく横一列に並び一斉に長槍を突き出す!
今度は跳躍する大勢の整っていなかった韋駄地源蔵は、地に顔面がつきそうなほど低い姿勢をとり長槍をやり過ごすと、そのままの大勢から力任せに槍を振り敵の脚を狙って薙ぎ払う!
恐ろしいことに五人の脚は揃いも揃って切断され、地への支えを失った兵士の身体が人形のように倒れていった。
此処までの人智を超えた壮絶な様を見て、幕府軍の兵士達は流石にゾッとして攻め込む脚を止めたが、百人の兵士を取りまとめ、この策の指揮を任された指揮官が「怯むな!攻め続けろ!」と怒号を飛ばし、怯んだ兵士を無理矢理奮い立たせる。
幕府軍はたった一人の相手に三十人の屍を築き軽い混乱状態を招いていたけれど、数での圧倒的かつ絶対的な優位は変わらず、必ず討ち果たせるもの信じていた。
韋駄地源蔵の体力回復を許すまじと、さらに大人数の塊が、彼を中心とした円状に陣を組み首を奪ろうと一斉に攻め立てる。
敵に応戦し激しい動きを繰り返し、さぞや息を切らしているであろうと思われる韋駄地源蔵は大方の予想を裏切り、息一つ見出さず不敵な笑みを浮かべ「馬鹿な者どもよ」と呟いた。
が、気合の叫び声を上げながら彼に攻撃を仕掛ける幕府軍兵士達。彼らにその呟きが届くこともなく波状攻撃が止まることはない。
全軍が一斉に間を詰めようとするのを「迎え撃つ」ではなく、やはり人壁の一部に狙いを定めて韋駄地源蔵は突進する!
そして敵を目前にし、今までと同じように槍で薙ぎ払うのかと思いきや、今度は槍を地面に力一杯突き刺し、反動を利用した棒高跳びによって人壁を越えていった!
敵兵の背後に綺麗に着地した彼は、普通なら逃げ果せるかもしれない千載一遇のこの機会に、逃げの一手などあり得んとばかりにサッと反転し、刀を鞘から解き放つと敵の背後突く攻撃を仕掛けたものであった!
幕府軍の誰もが予想し得ない彼の行動に動揺し、動きが鈍ったところを逃さず強襲するこの男は、もはや人ではなく「化け物」の類と云えたかもしれない。
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