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刀姫in 世直し道中ひざくりげ 第3話 芥藻屑との戦 ノ85

 韋駄地は塀の上から顔を出し庭を覗き込み、紗夜が居ないものかと探すが人影は一つも見当たらず誰も居ない...

 と、いつも家族団欒で食事を摂る居間の方から父の話し声が微かに聴こえた。

 日本人の一日三食という習慣は江戸時代中期頃からだと云われているけれど、名家である韋駄地家ではいち早くその習慣を取り入れており、それまで朝夕の二回だった食事を朝昼夕の三回摂る習慣が既に根付いていた。

 太陽の位置から鑑みて今は一家団欒で食事を摂っているのだろう。

「父の声...ハハハ...凄く、凄く懐かしい感がするものだな...」

 韋駄地は父に可愛がられていた頃の己を思い出し、目頭が熱くなって涙が溢れた。
 正に「鬼の目にも涙」といった具合であったろうか...

 彼は話し声のする方へ、庭に埋められた木々に隠れつつ出来るだけ音を立てないようにして近づいた。

「みんな、揃っているではないか...」

 やはり始めに予想した通り韋駄地の父と母、それに弟や妹達の計六人が畳の上に正座し、一家団欒の昼食を摂る最中であった。無論、小屋に食事を届けてくれていた紗夜の姿もそこにある...

 韋駄地は揃った家族全員を目の当たりにし、「今すぐにでも輪の中へ入りたい」という衝動にかられるも、すんでのところで我が身が豹変してしまったことを思い出し踏み止まる。

「この姿で会いに行くわけにもいくまい...」

 可哀想にも気落ちする韋駄地だったけれど、父親が家族に対して何を語っているのか探るべく、家族に見つからぬよう細心の注意を払い居間の直ぐ側まで近づいた。

 彼は外から壁越しに聴き耳を立てた瞬間あることに気付く。

「...なんだこれは?声が異様にハッキリと聴こえるぞ...」

 そう、彼の聴覚は人だった頃を遥かに超え異常なまでに強力になっていたのだった。ある意味「革新的な変身」を遂げた彼の身体は、化け物然とした見てくれだけでなく、以降は良くも悪くも様々な変化が現れるのだったがそれはまた別の話しである...

 丁度父親が語り終え、泣いてでもいるのであろうか?紗夜の微妙に震えた声が聴こえて来る。

「ち、父上のおっしゃったように...本当に、本当に兄上は亡くなってしまわれたのですか?」

「!?」

 思わぬ紗夜の言葉に韋駄地は驚き石のように固まった。

「紗夜や、何度も同じことを言わせるでない。そうだ。お前達の兄であり我息子であった韋駄地源蔵はもうこの世には居ない。残念だが間違いの無い話だ。雇った男が源蔵の亡骸をここへ運んで来る手筈となっている」

 

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