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一輪の廃墟好き 第48話 御神体

 備品などが破壊されたり消失してしまったがらんどうな拝殿は、廃墟独特のある意味寂しげな情景を醸し出していた。

 散々、破壊者や盗人のことを云っておいてなんだが、人が廃墟へ侵入して悪戯に害を成したであろう形跡も、この空間にノスタルジックな雰囲気を感じさせる一つの要因となっているのである。

 普通に考えて許し難い行為であることは紛れもない事実だったりするのだが...

 僕と未桜は出来るだけ振動を起こさないよう慎重に拝殿を調べ、ひとしきり撮影を終えると拝殿と神殿を繋ぐ幣殿へと向かう。

 幣殿の床は拝殿の床と比べなぜだか傷みが激しく、至る所に床板の凹んだ歪みが生じていた。

 幣殿と言っても建物全体の規模が小さいため特に目を引く物も無く、足下に気をつけながらほとんど素通りして戸が開いたままの神殿へそっと入る。

 神社でいうところの神殿と呼ばれる場所には御神体が祀られるのが通例である。

 神体(しんたい)とは神道で神が宿るとされる物体であり、神社を訪れる参拝客の礼拝の対象となる神社の肝とも云えるものだ。

 福岡県に存する宗像大社(むなかたたいしゃ)では玄界灘(げんかいなだ)に浮かぶ沖ノ島が神域(神体)とされ、

奈良県に在る大神神社(おおみわじんじゃ)では三輪山が神体とされており、

他にも三重県皇大神宮(こうたいじんぐう)では三種の神器の一つである八咫鏡(やたのかがみ)となっていて、

各々の神社によって御神体の姿形は全く異なるのだからおもしろい。

 この燈明神社にも御神体は存在していた筈なのだけれど、残念なことにそれがどういった形や大きさをしているのかまでは調べきれていなかった。

 もし仮にあとで淀橋さんと再び会う機会があったとしても、燈明神社には5歳までしか居なかったわけだから恐らく知らないだろう。

 だが、この神殿の中央の壁に取り付けられた神棚のような物には、何かが置かれていた形跡を示す異色な部分が残っていて、空いたスペースにすっぽりと収まる御神体があったのかも知れない。

 取り敢えず僕は御神体の見当たらない神棚に向けて手を合わせ、心の中で、この場に居合わせることへの謝意を述べた。

 因みに助手の未桜も続けて手を合わせたが、何を想って手を合わせたのかまでは僕の知るところでも無かったし、正直訊くのが怖かったので別段彼女の想いには触れることはなかった。

 外が曇っている所為で窓から入る光は少なく、神殿の空間は何処となく不気味であったけれど、僕たちは何か新たな発見がないものかと、懐中電灯を取り出して隈なく探索したものである...

 

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