一輪の廃墟好き 第94話 超人?
何気なく「常人」という言葉をあまり深く考えずに使ってしまったけれど、少しばかり、否、大いに僕とは縁遠く不適当な言葉だったかも知れない。
「常人」なる単語は調べるまでもなく、「特に変わったところのない普通の人」という意味であり、僕がそんな極素朴過ぎる言葉が似合うような人間である筈がないのである。
今回のケースの場合、「超人」という言葉が適当だったのかも知れない...いや、僕は馬鹿か?ここはきっと「善人」という言葉が適当であったろう。
などど、優秀で貴重な僕の頭脳を実にくだらない思考で浪費するをやめ、番台に座る老婆の隣に目線を移すと、さっきまでそこに居た未桜の姿がないことに気付く。
「嬢ちゃんならもうとっくに行っちゃったでぇ」
戸惑う僕を見かねたのか、よく喋る御親切な老爺が「女湯」ののれんを指差して教えてくれた。
そうだった。早く温泉に浸かり、夕食の時間りに間に合うよう民宿へ戻らなければならない。
「あの、これ二人分のお代です。申し訳ありませんが時間がないのでこれで失礼させてもらいます」
僕は番台に座る八恵さんの目前に千円札をさっと置き深々と一礼したあと、名も知らぬご親切な牢屋にもペコリと頭を下げ、「男湯」ののれんをそそくさとくぐったのだった...
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