一輪の廃墟好き 第111話 滑る
「わたしたちを出迎えてくれたのは、きっとここで亡くなった前の女将さんだと思う...」
未桜に茶化された所為で、程なく驚きの感情が薄らいではいたが、彼女が不意に真面目な顔をして言うのでこちらとしても真面目に受け止めざるを得ない。
「...そうか...まぁ、あの時はお婆さんが急な階段を手摺りも使わず上っていたから若干の違和感を覚えてはいたが...まさか幽霊だったとはね...」
彼女以外の人間が言っても疑いの余地が大ありの話だが、今までの経験上、彼女の霊感はほぼ100%信じてもいいレベルなのである。
つまり、僕が人生で初めて見た幽霊は、てっきり灯明神社のお婆さんの霊だと思っていたのだけれど、知らぬ間に初体験を終えていたらしい...
「おいおい、君たちは霊感があるって言うのかい?」
僕と未桜の会話が僅かに止まり黙していると、急に背後から男性の渋めの声で話しかけられた。無論、『男性』というのは、現職の刑事にして燈明神社の実質的所有者の淀鴛龍樹に他ならない。
「あっ、いえいえ。僕はたまたまだと思うんですよ、そう、たまたまなんです。でもこっちの彼女は相当に強い霊感を持つ『本物』ですよ」
酔いが回っている所為で、普段なら無駄に情報を流さない僕の口がついついうっかり滑ってしまった。
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