刀姫in 世直し道中ひざくりげ 第1話 旅立ち ノ13
「光が消えおった...この世の物とは思えん不思議な板よ...」
「滝之助!何をしておる?早うそれを持って来い」
「たっ、只今!」
光を失った黒い板を目を丸くして眺めていた滝之助が光圀に急かされ慌てて渡す。
光圀も興味津々といった具合で手に持った板を眺める。
「もう光は出さぬか...それにしても面白い手触りじゃな、鉄とも石とも違う.....ん!?文字が刻まれておる。鳳来極光(ほうらいきょっこう)とでも読むのか......ともすればこの娘の持物かもしれん。一先ず儂が預かっておくとしよう」
光圀は謎の黒い板に刻まれた文字を読み上げ懐に入れたのだった。
馬に騎乗し手綱を握った滝之助が竹笠を手で突き視界を広げ曇天を見上げる。
「これは如何...雨が激しくなってきましたな」
「この娘のこともある。滝之助よ、全力で馬を飛ばすぞ!付いて参れ!」
「はっ!」
幼少の頃より馬の扱いに慣れ、人より優れた乗馬技術を持つ光圀が馬を飛ばす!
山道を颯爽と駆け抜ける。
雨粒が大粒となり、風もさらに強さを増すが馬の速度が落ちる気配は無い。
「みっ...」
拾った娘を背中に背負い込み、泥濘む道を晴天時以上の疾さで駆ける光圀を抑えようと、声を掛けようとした滝之助が言葉を呑む。
「ああなってしまった光圀様を抑えようなどと案ずるは馬鹿の極みというものか...」
代わりにそう呟いたものだ。
降り止まない雨のなか馬を飛ばし続けた甲斐もあり、二人は予定よりずっと早く西山御殿に辿り着くことができた。
「光圀様、ゆっくり降りてくだされ」
「分かっておる。安心せい」
光圀が滝之助の手助けを借りながら慎重に馬から降り立つ。
馬の「ヒヒン」という鳴き声で二人の到着に気付き、社の掃除をしていた絹江が傘をさし外に出て来た。
「お帰りなさいませ光圀様。滝之助さんもご苦労様です」
会釈する絹江に滝之助が無言の会釈で返し、光圀は流石に疲れた顔だったけれども絹江の顔を見てニカッと笑みを浮かべた。
「只今帰ったぞ絹江。土産に山で娘子も拾って来た。身体が冷えておるゆえ即刻湯を沸かしてくれんかのう」
「今なんとおっしゃいましたか!?」
聞いた絹江は鳩が豆鉄砲を食ったような顔にり聞き返した。
理由は話すまでも無いが滝之助と似たようなものである。
「詳しい話しは後ほど致す。とにかく風呂の湯を沸かすのが先決じゃ!」
「承知しました。直ぐに沸かしましょう」
絹江も光圀の性分は十分に理解している。二度は問わずにさっさと風呂の準備に取り掛かったのだった。
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