刀姫in 世直し道中ひざくりげ 第3話 芥藻屑との戦 ノ29
たった二頭の馬では仙花の一行全員が乗って旅をするには数が足りない。
あわよくば荷物持ちとして己の負担を軽くするためでは?との期待を込めて蓮左衞門は訊いたのである。が...
「こいつらを捌き、村人達と儂らの食料にするのだよ。そうすれば今宵の飯の心配は無くなり明日の朝わざわざ狩に赴くこともなかろう。正に一石二鳥というわけだな♪」
「さ、流石は仙花様!見事な思いつきにござるぅ...」
蓮座衞門が半分は感心し、残りの半分は残念な心持ちで仙花を賞賛した。ちなみにこの時、連れられた二頭の馬達がビクッと反応し冷や汗を流していたのだけれど、気づいた者は誰一人として居なかった。
いくら超人的な怪力と体力を備える蓮左衞門とて生身の人間である。あり得ない荷物量を常時背負いながら徒歩での旅を続けることは特に苦痛ではなかったのが、人間である以上は当然疲労が蓄積してしまうのだから彼の心中も分からなくはない。
そんな蓮左衞門を他所に仙花が相変わらず立ったまま寝ていた雪舟丸の背中を押し、二頭の馬の元まで強引に近づけ背中に向けて声をかける。
「雪舟丸よ起きろ!其方の出番だぞ」
仙花の声に反応した雪舟丸が鼻ちょうちんをパチンと破裂させ、ぼ~っとした眼をゆっくり開けて目覚めた。
「....先程から辺りが騒がしいようですが...何か事件でもあったのございましょうか?」
「おう、あったあった。あったが事はもうとっくに済んだぞ。それより目の前の馬を調理しやすいように其方の剣でちょちょいと八つ裂きにしてくれるか?」
さも恐ろしいことを平気で口にした仙花。彼女が常人とは一味も二味も違うことをうかがわせた。
「...それは容易い願いですが...」
と雪舟丸が何かを言いかけたところへ、村長の郷六が血相を変えて走って来た。
「せっ、仙花様!無礼を承知で申し上げます!その馬を斬ってはなりませぬ!もし斬ってしまえば天下の将軍様のお怒りを買ってしまいますぞ!」
郷六が言わんとしているのは、徳川幕府五代目の将軍「徳川綱吉」の制定した「生類憐れみの令」のことであった。
将来、長きに渡り悪法として語り継がれることになったこの法令は、動物・嬰児・傷病人などの保護を目的としたものであったのだが、悪い意味で人々の生活に大きく影響し、徳川綱吉が没っしてようやく廃止されたのだと云う。
「郷六。其方が気にしておるのは『生類憐れみの令』のことであろうがそんなものは気にせんで良い。もし万が一、将軍様からお咎めを受けようものなら全ての責任は儂がとる。だから安心するがいい」
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