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刀姫in 世直し道中ひざくりげ 第3話 芥藻屑との戦 ノ61

 こうして、並の武士とは遥かに一線を画した彼の戦いぶりにより、幕府軍の兵士は次々と返り討ちに遭い、指揮官を合わせ十数人にまで減ってしまっていた。

 戦場には幕府軍兵士達の屍が散乱しており、ポツポツと降り出した雨の中に大量の返り血を浴びた鎧武者が刀を持ったまま立っている。
 
 その姿を遠くから眺めていた別部隊の兵士の一人が「ありゃぁ人間じゃねぇ、赤鬼だ」と呟き、もう一人の兵士が「だな、赤鬼の鬼武者だぁ」と呟いたと云う。
 この二人の兵士よって急速に噂が広まり、韋駄地源蔵が世間から「鬼武者」と呼ばれるようになった所以である。

 と、彼が「鬼武者」たる所以を語ることはできたけれど、此処で物語を切ってしまい結末まで語らぬは決まりが悪いというもの。
 なので鬼武者韋駄地源蔵のこの後の行先まで語ろうではないか...

 韋駄地源蔵を孤立させ討伐する策は明らかに失敗の様相を呈しているのだから、本来であれば退却するのが妥当なのだが、この策を任じられた軍はそうはしなかった。
 では何故、生き残っている兵士の士気は風前の灯火であり指揮官の精神と体力も限界近くだというのに退却しなかったのか?

 幕府軍の本当の思惑はこうである。
 
 例え此度の策が失敗に終わり韋駄地源蔵を討ち取れずとも、何度も苦い水を飲まされた幕府軍としては、最悪この策の任じた部隊が全滅してしまっても彼の足止めとなってくれればそれで良いと...

 この部隊の指揮官は昨夜のうち、総大将である松平信綱(まつだいらのぶつな)に呼びつけられ、「死んでも退却は許さぬ」などと言い渡されたものである。
 いくらなんでもたった一人の武士を討ち取るのに、百人もの兵士が居れば「失敗は断じてあり得ん」とたかを括っていたのだが、結果は燦々たる有様となり今や絶望感しかなかった。
 
 無論、松平信綱とて無慈悲な策によって単に犠牲を払わせたわけではない。
 韋駄地討伐部隊の犠牲の裏では、全軍の総力を上げて天草四郎の守る砦へ攻め入っていたのである。何としてでも今日のうちに戰の決着をつけるために...

 
 さて、闘気によって湯気のようなものが沸き上がっている鬼武者韋駄地源蔵と対峙するは、あれだけいた兵士が残り十数人となってしまった討伐隊。

 彼らは怪異や妖怪の類である「鬼」を想わせる鬼武者の前で確かに怯えていた。しかし、地獄絵図のようなこの状況に於いても尚逃げ出さないことは賞賛に値し、ある意味では「勇者」であったかも知れない。
 
 そのある意味勇者である彼らに容赦無く襲いかかる鬼武者であった。

 

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