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刀姫in 世直し道中ひざくりげ 第2話 出雲の地へ ノ8

 お銀がぽかぽか陽気の日に氷の如く冷たい視線を雪舟丸へ送る。

「ああそうかい。あんたの噂は以前から時折り耳にすることがあったれど、拍子抜けさねぇ。てんで的外れだったみたいだよ」

 早くも握り飯をムシャムシャと食べる雪舟丸が眉をピクッと動かして訊く。

「....ふぉう、ほれふぁいっふぁいふぉんなふふぁさふぁ?」

「あんた...口に食べ物入れたまんま喋るんじゃないよ。あたしじゃなければ理解すらしてもらえないだろうに」

 どうやらお銀は聴き取れたらしい。

「時の大剣豪、『二刀流の宮本武蔵』に剣の勝負で勝ったという噂さ。だがあんたを見ているととても本当だとは思えないねぇ」

 口に残った握り飯をゴクンと飲み込み雪舟丸は言う。

「ああ、それは間違ない。宮本殿とは十年ほど前に勝負して勝っておる。まぁ、絶頂期をとうに過ぎた剣士に勝っても自慢にはならんがな。されども剣の腕にはちょいと自信がある。旅先で強敵が現れたなら、寝ているそれがしを敵の前に差し出すがいい。片っ端から斬ってやる」

 自慢げな口調ではなく、ただ淡々と言い放った言葉は不思議と真実味を帯びていた。

「へぇ〜。『宮本武蔵』に勝ったっていう噂は本当だったんだねぇ。じゃあ敵が現れたら遠慮なくあんたを差し...」

「すぴぃ〜、すぴぃ〜、すぴぃ〜」

「ったく、どんだけ寝れば気が済むのかねぇこの男は」

 朝から寝てばかりの雪舟丸は握り飯を食べ終わると既に寝ていた。

 されども、いくら絶頂期を過ぎていたとはいえ、最強と謳われた宮本武蔵に勝ったこの居眠り侍の実力は計り知れない。

 それはそうと、お銀がなかなか喉を通せずにいたお猪口の酒を飲み干す。と、目の前で握り飯を食べながら川の方を見ていた仙花が口を止め、握り飯を手放しスクっと立ち上がり妙な行動を取り出した。

 自身の身につける旅装束の腰巻きに手をかけたかと思うと、あろうことかあっという間に脱ぎ捨て一糸纏わぬ姿を晒したのである。それはそれは瑞々しくも美しい姿であったが周りの者達は...

「せっ!?」

「ぶぅふぉぉぉぉっ!?」

「なんとっ!?」

「すぴぃ〜、すぴぃ〜」

 お銀は余りのことに絶句し、九兵衛はむせて口の中の握り飯を堪らず吐き出し、蓮左衞門は顔を真っ赤にして両眼を両手で塞ぎ、雪舟丸は当然だが眠っていた。

 素っ裸の仙花は何も言わずただ無心に川の方へ走り出す。

「仙花様っ!川はおやめください!」

 冬の雪解け水が微かに残るこの時期の川の水はとても冷たく、まだまだ人が泳げるような温度ではない。お銀の制止する声は仙花に届かず、冷たく流れる川の中へ勢いよく飛び込んだのだった。

 

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