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刀姫in 世直し道中ひざくりげ 第3話 芥藻屑との戦 ノ10

 弓幹(ゆがら)と弦(つる)へ込める力が伝わりピンと張った。

「これも一期一会の類に入るかのう...さらばだ四谷流甲斐」

「バシュッ!!」

 放たれた矢が弾丸の如く凄まじい速さで一直線に四谷流甲斐へ飛ぶ!

「ゴシュッ!!」

「っ!!??」

 後頭部へ到達した矢は頭蓋骨を貫き、額から飛び出して彼方まで行った。

 四谷流甲斐の後頭部と額から血飛沫が上がり、動かぬ身体が横へ倒れ頭から落馬する。

 仙花達が初めて相対した芥五人衆が一人、烈剣の四谷流甲斐は、烈剣という名のつく剣技を披露することなくその生涯を閉じたのだった。

「お見事!伝説の那須与一も真っ青な腕前にござるなぁ!ワッハッハ!っと!九兵衛!共にこの屍の山を片付けるでござるよ!」

 戦の後に転がる屍を放置しようものならやがては腐り、異臭を放つだけならまだしも疫病が発生する可能性もある。ゆえに屍を埋葬することも大事な仕事のうちなのだ。

「承知でさぁ!...しかし旅の初日でこんなに屍を拝むとは...先が思いやられる...」

 一人拍手喝采にて仙花を誉め讃える蓮左衞門から言われ、勢いで返事をしたものの少しボヤいた九兵衛。まぁ、気持ちは分からないでもない...

 剣術の達人?一人をなんの変哲も無い矢一本で葬った刀姫こと仙花は、今回も脇差「風鳴り」を試すことが出来なかったためか、特に喜んだ様子も見せずに弓矢を直しながら佇む雪舟丸の方へ歩き出した。

 その様子を眺めていたお銀が蓮左衞門らの方を振り向き声をかける。

「あなた方も此度は人数が多くて大変でしょうに。埋葬する穴はあたしに任せてあなた方は屍を運んで来ておくんなまし」

「えっ!?本当に任せて大丈夫でやすか?」
 
 此度の屍は全部で十二体。これだけの数を埋葬する穴を女一人でどうするのだと思った九兵衛が訊いた。

「フフフ、心配御無用。まぁ見てなって」

 そう言って道横の丘の方を向き忍術発動の構えを取るお銀。

「土遁!忍法地中発破の術!」

「ズオォッ!!」

 忍法発動と同時にこんもりとした土の丘が突然盛り上がり、大きな音ともに大量の土を吹き飛ばす爆発を起こし、その場所に深さ一丈直径十丈ほどの大穴が姿を現した。

 突然目の前で起きた爆発に腰を抜かした九兵衛が震え声で言う。

「す、凄いでやんすねぇお銀さん。あ、ありがとうございやすぅ...」

「おお!お銀殿!助かったでござるよ!これでだいぶ手間が省けたってもんだ」

 既に二体の屍を担いでいた蓮左衞門も喜んだ。

「じゃあ、あとは二人に任せたよ。全部運び終えたら教えて頂戴な。忍術で土を埋め戻してあげるからねぇ」

「いやぁ至れり尽くせりで申し訳ないがそれも助かるでござる!」

 お銀は屈託のない蓮左衞門に乾いた笑顔を一瞬だけ見せ、何やら会話をしている仙花と雪舟丸の方へと向かった。

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